» 2011年6月23日(木曜日)

【取材報告】被災地の小さなメディアを訪問(上)

(報告:畑仲哲雄、林香里

林香里研究室は、6月19日から20日にかけて、東日本大震災の被災地で地域の人々にきめ細かい情報を提供している宮城県内の臨時災害放送局と小さな地域新聞社を訪れ、非常時における地域とメディアのあり方について話を聞いた。放送局は仙台市から車で1時間ほど南にある宮城県亘理町の「FMあおそら」。新聞社は東北最大の漁港として知られる石巻市の石巻日日新聞社。スマートフォンが普及し、facebookなどのソーシャル・ネットワークが注目されるなか、ラジオと新聞紙という旧型メディアが被災地においてどのような力を発揮しているのか。以下、簡単に報告する。

FMあおぞらを設立・運営するチーフ吉田圭さん(右)とサブチーフ西垣裕子さん(左)=宮城県亘理郡亘理町字下小路7-4のスタジオで撮影

FMあおぞらを設立・運営するチーフ吉田圭さん(右)とサブチーフ西垣裕子さん(左)=宮城県亘理郡亘理町字下小路7-4のスタジオで撮影

  • 孤立する地域の人を救いたい:主婦が立ち上げた「FMあおぞら」

臨時災害放送局「FMあおぞら」は、大地震発生から約2週間後の3月24日、宮城県亘理町に開局した。スタジオは、町役場の案内所として建てられたプレハブの片隅。大人が4人も入ると身動きが取れない狭いスペースで、窓際にはミキサーやCDプレーヤーなど最小限の放送機材が設置され、ボランティアのスタッフが2時間ごと交代でマイクに向かっている。

周波数は79.2MHz。出力は30Wで、亘理町のほぼ全域には到達している。インターネット経由で番組を同時配信するサイマル放送や、ダウンロードした番組を好きな時間に聞けるポッドキャストなどにも手を伸ばしたいところだが、現状では人手が足りない。というのも、フルタイムの常勤スタッフはラジオ開局を提案した吉田圭さんと西垣裕子さんという2人の主婦だけ。12~13人のボランティアがそれぞれの空いた時間に放送を手伝ってくれているが、オーディオやITに詳しいボランティアの助力がない限り、現状維持で手いっぱいである。(協力できる人がいれば、iii.media.studies@gmail.com まで連絡ください。林研究室からFMあおぞらの吉田さん、西垣さんに連絡します)

  • 開局の経緯

「FMあおぞら」が開局した経緯は、チーフの吉田さんが、隣の山元町で一足はやく開局した臨時災害放送局「りんごラジオ」を2日間ボランティアで手伝った後、亘理町役場に「わが町にも必要」と訴え、その提案が町長にすんなり受け入れられたこと。吉田さんや西垣さんは放送局での仕事をしたことがなかったが、山元町の「りんごラジオ」開局を手助けした新潟県の「FMながおか」が、亘理町にも放送機材を提供してくれた。

吉田さんが役場にラジオ開局を申し入れた翌日の3月24日、FMながおかのスタッフが機材セッティトしてくれた。その作業が終ったのが午後3時で、「FMあおぞら」開局はその1時間後の午後4時だった。この瞬間から、吉田さんと西垣さんのぶっつけ本番の放送が途切れずにおこなわれている。

手書きのメモを見ながアナウンスする男性ボランティア

手書きのメモを見ながアナウンスする男性ボランティア

  • ラジオを新しいコミュニティの中核に

亘理町は人口約35000人。他の地域に比べると「被害は少ないほう」と言われるが、それでも犠牲者は250人を超え、避難者は一時1000人を大きく上回った。浸水した面積は町全体の50%にあたる35平方メートルに及び、2700棟超の建物が全損壊および一部損壊の被害を受けた。町役場の建物も被災し、地震直後は防災無線スピーカーも80機のうち20機近くが使えなくなった。

町役場地震も防災無線で町民に情報提供しているが、ラジオの良さは刻々と変化する状況に対応できること。吉田さんたちはお母さんネットワークを使って情報収集しながらマイクを握る。支援物資は何時ごろにどこに届くのか。灯油販売所はどこにできたのか。給水所の場所はどこにあるのか。ボイスレコーダー片手に町内のイベントや話題を拾ってまわったり、町民から電話で伝えられる情報を番組で紹介することも多い。役人的な発想ではなく、ふつうの町民の視点である点が、防災無線との違いである。

亘理町には、これまで町域をカバーする地域密着型のメディアがなかった。平時であれば、防災や安全に関わる情報を提供するには広域メディアでもよかったが、吉田さんは「災害時には町ごとの情報が必要と」と力説する。これまでは役場から発信された情報は、「区長」と呼ばれる地域の町内会の代表者を介して、町内会の班長に伝達され、各戸に伝わるという「上意下達であった。しかし大災害で多くの地域の区長や町内会長宅も被災し、それまでの情報伝達や地域自治の仕組みが崩壊した。

震災から3ヶ月。小中学校などに作られた避難所は次々に閉鎖され、被災者は仮設住宅に移ったり、自宅に戻ったりしている。避難所にいれば誰かの目に留まり、声もかけてもらえた高齢者も、家の中で孤立しがちになり、状況が悪化している例も少なくない。吉田さんは「仮設で元気がなくなったりするお年寄りがいます。情報もなく、一日中家にいる。そういう人のためにも、いまこそラジオが必要です」と話す。ラジオの内容の一部を時おりツイッターでつぶやいている西垣さんは「情報の発信はいろんなスタイルがあってよくて、どこかに引っかかればいいなと思います」と、小さなメディアの組み合わせる重要性を話していた。語っていた。

FMあおぞら(亘理町臨時災害放送局)
所在地:宮城県亘理郡亘理町字下小路7−4
周波数:79.2MHz、30W

FMあおぞらの公式ウェブサイト
www.town.watari.miyagi.jp/index.cfm/22,0,126,html

FMあおぞらのスタッフブログ「あおぞら日記」
www.town.watari.miyagi.jp/index.cfm/22,0,126,272,html

河北新報Web日誌「災害FM局「あおぞら」 宮城県亘理町
http://blog.kahoku.co.jp/web/archives/2011/06/post_294.html

このたびの被災地訪問は、2011年6月3日に本郷キャンパスで開催した「メディア研究のつどい」で講師を務めた河北新報社の佐藤和文メディア局長の個人的な協力よって実現したものであり、この場を借りて、心よりのお礼を申し上げる。

(文責・畑仲哲雄)

まだ撤去されていなガレキと車

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かろうじて建っている家屋

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